育児初心者の歩み

プレパパによる育児の準備

今更聞けない!調乳は70℃以上では何故?

育児でほぼ必須となるのが粉ミルクですが、
粉ミルクの説明を読むと、必ずといっていいほど、
「調乳は70℃以上のお湯で行う」
という説明が書かれています。

なんで60℃や80℃ではなく70℃なの?
と疑問に思いつつも、ミルクを求めて泣きながらせかしてくる赤ちゃんを横目に、
その理由を調べているわけにもいかず、
とにかく、説明に従ってミルクを作り、
赤ちゃんに飲ませている頃にはその疑問はどこかへ行ってしまっています。

そういうわけで、結局、この70℃の疑問が残ったままになっていたのですが、
同じような疑問を持っている人は多いのではないでしょうか。

そこで、なぜ調乳は70℃以上で行わないといけないのかについて、
論文も漁りながら、科学的な根拠を調べてみました。

原因はサカザキ菌

文献を漁ってみると、まさにその答えのような文章が見つかります。

[1] 小池通夫,「乳児用粉乳の調乳には 70℃以上のお湯を使うべしという新しい指示」, 2011

こちらによると、70℃以上とされている根拠に
Enterobacter sakazakii という細菌(以下、サカザキ菌)が挙げられています。

このサカザキ菌を殺菌するために、70℃以上のお湯がでの調乳が必要ということですね。

サカザキ菌とは

ところで、このサカザキ菌とは一体どういう菌なのでしょうか。

まだまだ部分的にしか分かっていないところも多いようですが、
いくつか特徴的な性質をまとめておきます。

危険性

サカザキ菌は病原性の細菌で、
全ての年代の人に感染する可能性があるようです。

特に、赤ちゃんに感染するとリスクが高く、
感染症を発症した際の致死率が20~50%もあるとされています。

かなり怖いですね。

感染経路

サカザキ菌は粉ミルクの製造環境中に多く存在するとされていて、
その混入を避けることが困難のようです。

そのため、実際に赤ちゃんに飲ませる直前に殺菌するということが、
主な感染予防策となるようです。

調乳温度とサカザキ菌の殺菌

感染して発症すると恐ろしいサカザキ菌ですが、
70℃以上で調乳すれば大丈夫というのは確かなのでしょうか。

そこで、さらに文献を漁っていると、
調乳温度と殺菌の関係を調べた論文を見つけました。

[2] 萩原博和, 露木朝子, 古川壮一, 森永康, 五十君靜信, 「乳児用調製粉乳 (PIF) の調乳および保存方法が Enterobacter sakazakii の生残と増殖に及ぼす影響」, 2009

70℃以上で殺菌

文献中では、粉ミルクを一定の湯音で二分間加熱し、
菌数の測定するという実験が行われています。

下のグラフは、文献中の菌数の数値をグラフに起こしたものです。
横軸が湯の温度、縦軸が菌の数を表しています。
色の違いはサカザキ菌の提供元の違いです。

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湯の温度が60℃でも、検出されなくなるサカザキ菌もいますが、
70℃以上では、ほぼ全てのサカザキ菌が検出されなくなっています。

この70℃という数値が、
粉ミルク調乳の説明書きに採用されているということですね。

調乳後の時間経過と菌数

文献中では、さらに、調乳後の一定時間保存した場合の菌数についても調べられていました。

先ほどは、調乳時に2分間加熱していましたが、
ここでは、調乳時に一定温度のお湯を加えて2分間かき混ぜ、
その後、室温程度で放置して菌数を測定するという方法を取っています。
より実際の調乳時にありそうな状況ですね。

文献中では様々な状況での結果が記載されいますが、
ここでは、上で最も熱に強かったサキザキ菌について、
室温25℃で保管した場合の結果を抜粋してグラフに起こしました。

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最初の0分は調乳前に意図的にサカザキ菌を加えた際の菌数、
その後の2分の測定値は、調乳直後の菌数です。

2分間加熱した場合とは違い、かき混ぜている間にも温度は下がっています。
そのため、70℃のお湯を使って調乳した際でも、
確かに菌数は減っていますが、
加熱時のグラフのように菌が検出されなくなるまでは至っていません。

80℃のお湯でかき混ぜた場合はかなり菌数が減っています。
ただし、当然ながら放置していると徐々に菌数が増える傾向にあるので、
調乳後はなるべく早く赤ちゃんに飲ませてあげたいですね。

この結果を見ると、70℃以上で調乳とはいっても、
実際に調乳している時に温度が下がってしまうので、
余裕をもって80℃くらいで調乳するのが良さそうにも見えますね。

昔の調乳は50℃以上だった?

実はこのサカザキ菌を意識して70℃以上の調乳が薦められ始めたのは、
比較的最近のことです。

文献[1]の冒頭に書かれていますが、
調乳の際の温度は長年「50℃以上」だったようです。

研究が進むとこの基準もまた見直される可能性がありますね。
常に新しい情報を手に入れていくことが重要そうです。

まとめ

この記事では、調乳の説明でよく書かれている
「70℃以上のお湯で調乳する」という注意書きについて、
その理由を見ていきました。

その理由は、サカザキ菌という細菌を殺菌するために、
70℃以上の湯が必要だからということでしたね。

ただし、調乳中にもお湯の温度が下がることを考えると、
お湯自体はもう少し高めの温度で用意してもよさそうです。